・山間の思索者へのオマージュ
 
餌の匂いがすると目の色を変えて、すすろうと群がってくる蝿。
彼らは虫の本能でしか行動できないので、
人の遠慮や奥ゆかしさを決して認識しない。

弱っておとなしくしている者と、
静寂をたたえる思索者の見分けをつける事ができない。

静かな者を見境なく刺し、温厚な者へこそより攻撃性を増し、
血をすすろうと大喜びで襲いかかる。

無自覚に次々発せられる蝿の羽音は暴力のように彼らを痛めつける。

蝿に知恵を伝えてやろうとした思索者は逆に怪我を負わされて帰ってくるだろう。
そして孤独の中に帰っても、蝿どものやかましい羽音は鼓膜にこびり付き、
夜のあいだもうなされ続ける。

より大きな音を立て、より強い力を得る事が価値である蝿には、
知恵など無価値も同然である。

もう二度と蝿の群がる市場に近づくまいと、
思索者は山にこもり静かに生を終えるだろう。

だが死してなお彼の周りに安らぎは訪れない。
蝿どもは彼の遺品を嗅ぎ付けると無残に切り刻み、
餌に加工しては食い散らかし、汚していく。

そしていつの世までも、血にまみれた蛮行を繰り返し続けるのだ。
今日も市場は、うなる蝿どもの羽音に埋めつくされている。
 
 
  
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